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国内初!「ドローン×AI×遠隔情報共有技術」を用いた密漁等の監視・抑止システムが本格運用。海で培った最先端技術を多岐に活かす
株式会社エアーズ 代表取締役 小豆嶋 和洋
密漁の被害総額は年間5,000億円超、検挙件数約1,500件…。これは日本国内における密漁(漁業関係法令違反)の現状であり、多くの漁業者が対策に悩まされ続けている。
現在、この課題解決にもドローンが注目されており、中でもドローン・AI・遠隔情報共有技術での監視・抑止システムが本格運用された事例を紹介する。海で培った高い技術は、陸上での監視や災害時などにも展開されようとしている。
「海で鍛えたものは強い」
―御社ではドローンによる監視システムの構築を行い、密漁対策においては2021 年4月から実装に至っているそうですね。
ご存じの通り、海の環境はとても過酷です。総じて風が強く、荒天時は波しぶきや高波の影響がありますし、街灯がないので夜の闇は実に深い。この場所でドローンを安心・安全に飛ばすためには、強風に強く、防水性能があることに加え、塩害などの対応や着水用フロートの装着など、プラスアルファの装備も必要になります。何よりセキュアである必要があります。
さらに、搭載するカメラは高精度可視光カメラ・赤外線カメラで昼夜を問わず撮影できることや、高精度な判別能力を有するAI が必要で、広域な海は目印になるものがないため、しっかりとした位置情報の把握とその情報を共有できるシステムがないといけません。
― おっしゃる通り、海上の気象や操作条件はドローンのフライトの中でも過酷であるため、高度なスペックが求められます。
はい。密漁監視の実証実験自体は2017 年から始めていたのですが、海での利活用に耐えうる機体やシステムの選定にかなり難航を極めました。
途中、国の新たな規制が加わってゼロからのスタートを強いられたりと、山あり谷ありでしたが、このたび各方面の力をお借りして青森県野辺地町漁業協同組合で実運用に入ることができました。
私は常々「海で鍛えられたものは強い」と考えていて、それはドローン、そしてシステムも然りだと思います。過酷な環境下で開発したからこそ、このソリューションがあらゆるシーンで多様な展開が可能なシステムになっていると言っても過言ではありません。
社会課題の解決事業に邁進
―改めて、御社の事業概要を教えてください。
当社の母体は、リサイクルマシーンやプラント装置メーカーとして事業を行ってきた会社です。東日本大震災後にも除染作業を行うなど、環境創造を通じて社会課題の解決に取り組んできました。
2015 年頃からドローンが急速に普及しはじめ、当社としても「これまで行ってきた環境や社会課題解決といった視点からドローンに関わることはできないか」と考え、ドローン事業の可能性を見出そうと2019 年に株式会社エアーズを設立しました。主にドローンスクール事業、ドローン販売事業、ドローン導入コンサルティング事業を手掛けています。
― ドローンによる密漁監視システムの本格運用は日本初となります。発想のきっかけは。
私の地元である岩手県大槌町も東日本大震災で大きな被害を受けた自治体の一つです。除染作業の事業を行っている延長で「地元で何かできないか」と考えていたときに、地域の漁港が密漁被害に苦しんでいるという話を聞き、ドローンの活用を思いつきました。
―国内の密漁の現状は。
悪質な密漁が増加傾向にあり、ここ数年は全国で年間1,500 件前後もの検挙件数があります。特に、アワビ、ナマコは、価値の高い水産資源でありながら沿岸域に生息し、容易に採捕できるということで、密漁の対象とされやすく、組織的かつ広域的な密漁が横行しています。
― これまでは密漁に対してどのような対策が取られてきたのでしょうか。
沿岸域なら定点カメラやレーダーを設置したり、漁業組合の方が陸に立って目視で監視し、遠洋なら監視船を出して見回りを行っていたそうですが、こういった監視の目をかいくぐって密漁が行われ、被害が出続けていました。
水産庁でも「密漁は漁業の生産活動や水産資源に深刻な影響を与える行為である」として、密漁防止活動に取り組んでおり、2020 年に改正漁業法が施行され、密漁者に対する厳しい罰則規定が定められましたが、その後も密漁被害は後を絶たない状況で、罰則の強化だけでは抑止効果として十分ではないことも事実です。
密漁監視抑止に加え、スマートIoTで生産効率を高める
― 実運用に至っている密漁監視システムについて、改めてその内容を教えてください。
青森県野辺地漁港は、同県内有数の海産物の宝庫で、特に帆立貝とナマコの養殖が盛んにおこなわれています。特にナマコは海外で高級食材として需要があり、漁業者にとっても大きな収益源です。しかしながら収穫時期になるのを見計らって密漁が行われ、根こそぎ密漁されるなどで数百キロ単位での被害が出続けていたということです。
そこで、高精度可視光カメラ・赤外線カメラを搭載したドローンを密漁被害が予測される管轄内エリアに飛ばし、上空から撮影することで広範囲の監視を実現。この画像をAI で判別、瞬時にその画像と位置情報を複数の関係者に伝達します。
―AI による画像解析ではどのような判別が可能ですか。
船舶、ゴムボート、不審車両、人物に加え、潜水時にダイバーが吐き出す泡まで特定することが可能で、これらを検知すると位置情報をメールで自動通報します。
― 遠隔情報共有システムとして「Hec-Eye(ヘックアイ)」を導入しています。
当初は単純にドローンで撮影した映像をAI で判別させ、組合員の方に情報を提供するにとどまっていましたが、(株)リアルグローブのHec-Eye を導入したことで、組合員に加えて海上保安
庁、警察、県漁連と多くの人にデータをリアルタイムに共有することが可能となりました。各方面と連帯することで検挙率もあがりますし、抑止効果も高くなると考えています。
また、漁業におけるドローンの多様な利活用が見えてきており、密漁監視のみならず、災害時の人員捜査にも活用できますし、養殖棚や定置網の点検や漁場の環境調査に役立てることができたり、生育管理が可能になります。加えて、市場や百貨店・スーパー等のバイヤーにも漁場の状況を共有していただくというのが可能になり、漁港のPRや収益に直結することは大きなメリットといえます。
― 密漁監視システムの正式名称が「密漁監視抑止・スマート港湾管理システム」というのもそういった付加価値があることからのネーミングなのでしょうか。
あらゆる産業にもいえることでしょうが、漁業もまた労働力不足や燃料費の高騰といった課題があり、温暖化などあらゆる影響による環境変化や漁獲高の減少といった切実な問題もあります。これらの役に立つことも視野に入れています。
陸上での警備や災害時など幅広いドローンの利活用を実現
―監視システムの効果や反響はいかがですか。
「ドローンによる密漁監視を行う」というニュースがテレビや新聞で報道されたことで抑止効果があったのか、運用のスタートとともに密漁の動きがストップしているということです。やはり、機動力と監視能力のあるドローンで上空から監視される恐怖があり、行動に移すのが難しいのでしょう。
また、取り組みを見聞きしていただいた各地の漁業組合などからも多数問い合わせをいただいており、ニーズの高さを実感しています。
―今後の展開は。
大きく2つあります。まず1つ目は、密漁監視について、現在は野辺地漁港での運用ですが、密漁被害は多くの漁港に共通する課題です。ドローン× AI ×遠隔情報共有システムという最新のテ
クノロジーを活用し、漁業関係者の方々の精神的な負担や金銭的な被害をなくすべく、精力を傾けていきたいです。
2つ目は、密漁監視で培ったノウハウを広範囲に展開していくことです。冒頭でお話した通り、あらゆる厳しい条件が揃う海で培った技術は、多方面をカバーすることが可能です。陸上でのあらゆる監視に加え、点検や物資輸送、災害時の初動現場確認や人命救助、捜索などにも広く展開していくことが可能です。自治体、消防を含め、様々な関係者の方々の用途に合わせて活用いただけますので、ぜひ海で鍛えられた我々のドローンシステムに注目いただけますと幸いです。
(取材日/2021年7月 20 日)
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