~防災のDX化実例紹介~
地方にドローンを根付かせ、災害にも役立てる仕組みづくり
第2回 災害協定ではなく、ドローンによるまちづくり協定の意味
熊本地震の経験から、災害時にドローンをより有効的に活用するため、遠隔情報共有システム「Hec-Eye(ヘックアイ)」を設計・監修。一般社団法人EDACの理事長として数々の自治体の防災訓練で実証・実装をおこなってきました。
「地方にドローンを根付かせ、災害にも役立てる仕組みづくり」の第2回は、「平時にドローンを活用し、有事にも役立たせる」ことを目的に委託事業をおこなっている熊本県南小国町の事例をご紹介します。
◎ 一般社団法人EDAC 理事長 稲田悠樹 ◎
熊本県在住。2015年ドローンの会社を設立。2016年熊本地震、2020年熊本で豪雨災害を体験。ドローンを使った災害調査に参加した経験を活かし、自治体を中心に平時からドローンの活用を提唱する。ドローン関連書籍の執筆多数、NHKにっぽん百名山をはじめTV番組制作参加、企業のPR映像など、ドローン関連システム企画、監修およびテストパイロットと活動は多岐に渡る。
《熊本県南小国町》
南小国町は九州の中央部、熊本県の東北部に位置しています。総面積85%が山林原野で占められる中山間地区であり、緑と水のきれいな観光と農林業を主産業とする人口約4,000人の純農村です。
観光地としては、黒川温泉などの温泉地や「熊本緑の百景」第1位に選ばれた瀬の本高原などがあります。2023年には世界最大級の宿泊予約サイトBooking.comの「Traveller Review Awards 2023」にて日本で「最も居心地の良い場所」第1位にも選ばれています。
南小国町で、豪雨災害の際に実用されたドローンとシステムはどのように導入されたのか
― 災害時のドローン協定ではなく、なぜ「まちづくり」なのか?
南小国町から「災害時にドローンを活用したい」というお話しを頂いたのは、2016年の末頃でした。お互いに熊本地震を経験しておりましたので、「災害時に、急に新しいことはできない」という共通の認識がありました。
日頃、ドローンを操縦していない方が、例えば年2〜3回の防災訓練の時にだけ操作して、混乱する有事の際に果たして使いこなせるのだろうか、コスト的にもどうなのか、ということです。ですから日常使いである程度慣れ、日頃から役立っていて、結果、災害時にも使えるのが理想として、一般的な災害協定ではなく「ドローンを活用したまちづくり」という全般の協定にした経緯があります。
その結果、令和2年7豪雨の時には自治体の方だけで、43箇所の通報が1日半で状況の集約が完了したという成果がありました。
― 新しいことを取り入れる場合の成功法則
私の経験に基づいた個人的な考えではありますが、ドローンだけでなくいろいろなシステムも含めて、新しいことをやろうとした場合に失敗するパターンは「今までのやり方を丸っと変える」「いきなり全部をひっくり返す」ことです。もちろん上手くいく場合もありますが、厳しいパターンが多いなと感じています。
上手くいくパターンとしては、チェンジ(変える)ではなくアド(追加する)ですね。追加して時間をかけて少しずつ理想とする形に移行していく、段階を設計するというのが非常に重要かなと感じています。
たとえ話ですが、今、多くの方がスマートフォンを使っていらっしゃると思います。今のメモには写真や音声が貼付できたり文字の太さを変えたりと、他にも多くの機能があります。ですが、スマートフォンが出たての頃は、文字を打ち込むだけの機能しかなく、その後少しずつ機能が増えていったので、今のいろいろな機能が付いているメモが使えるという状況だと思います。最初からいきなり今の機能のメモを渡されても、どこの何を押したらいいかわからない、という状況に陥ると思うんですね。
つまり新しいことを取り入れる場合、最終的なビジョンは決めておきますが、最初は簡単にしておいて、慣れた頃に徐々に機能を増やしていくというのが大事だと思っています。
鳥獣害対策が、災害時に役立つ? 南小国町のドローン導入事例
― 南小国町の場合、実際どのようにドローンを導入していったのか
南小国町にドローンを導入した2017年頃は、ドローンを見たことが無い方がほとんどで、不安を持っていらっしゃる方が非常に多かった時期です。
新しいことをやろうとした時、今回は「まちづくり協定」ですから、町の皆さんを巻き込んで全体に普及させていく活動になります。その時に大切なのは、住まわれている方々の空気感。多くの場合は「知らない・わからない」から不安になると感じます。
ですから、平時から南小国町の方々に「ドローンとの接点を増やす」ことをやっています。レベルは問わずに、とにかく回数ですね。まずは見ていただく、触っていただくところから始めました。