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被災地に鮮度のいい地図を/ドローン映像のデジタル3D化 災害時にいかに素早く地図を更新できるか ドローンバードの挑戦
特定非営利活動法人 クライシスマッパーズ・ジャパン 理事長 古橋 大地
災害が発生したとき、空撮画像・映像をもとに遠隔で地図を作る意義は大きい。クライシスマッパーズ・ジャパンでは、世界中のマッパーたち、公的機関や民間企業と協力体制をとり、迅速にクライシスマッピングを行い、発災後の地図を提供することを目指している。
【クライシスマッピングへの目覚め】
2010年のハイチ地震で認識したオープンストリートマップの価値
―まずはクライシスマッピング、そしてクライシスマッパーズ・ジャパンについて教えて下さい。
そもそも理想的な地図というのは、常に最新の情報に更新されているものです。通りの向こうにコンビニがオープンした、新しい道路が開通した等、町は常に変化していくもの。紙の地図は印刷した瞬間に古くなってしまい、即時に更新することができないため、いつでも更新できるデジタル地図の有用性は非常に高いのです。
クライシスマッピングは、「市民参加型のクラウドソーシング被災地図情報支援」と言われていますが、災害時は、河川が氾濫したり道が遮断されたりと等町の様相が大きく変わるため、フレッシュな地図が求められます。昨日まで通ることのできた道が突然使えなくなってしまうほどの大きな変化が起こったとき、被災状況を素早く地図に取り込めるような体制を作り、提供するのが我々クライシスマッパーズ・ジャパンの活動です。
― クライシスマッピングの成り立ちにオープンストリートマップが関係していると聞きました。
2004 年に設立されたオープンストリートマップという地図コミュニティがあります。アカウント登録をすれば、誰でも編集でき、閲覧だけであれば登録なしで利用できる世界的なオープンソースの地図プラットフォームです。2008 年に日本人のコミュニティが立ち上がったときに初期メンバーとして加わり、最初は10 人程度で活動していました。
そんな中で2010 年1月にハイチ地震が起こり、元々緻密な地図が形成されていなかったエリアが大災害に見舞われたことで、遠隔で地図を作る動きが起こったのです。
―ハイチの地図はどのように作られたのですか。
世界中にいるオープンストリートマップのメンバーが一丸となり、衛星画像や航空写真をもとにして一斉に情報を入力しました。その結果、地震発生から1週間ほどで詳細な地図が出来上がったのです。この頃のオープンストリートマップは普通の商用地図に匹敵するようなレベルには達していなかったので、ある意味マニアックな世界でした。しかしハイチ地震を機にオープンストリートマップの価値が認識され、今では世界中で600万人近くの人々がマッピングに参加しています。災害時には各種対策を立てるためにも地図は必要不可欠ですし、町の様相も大きく変化するため最新の地図が必要になります。ハイチ地震でオープンストリートマップを役立ててもらえた経験から、僕自身も遠隔で地図を作ることの大切さを教えられ、今の活動のベースとなっています。
【台風15号のドローン隊出動】
災害支援に特化したNPO法人設立と災害協定によって実現した機動力
―NPO 法人クライシスマッパーズ・ジャパン設立の経緯を教えてください。
前述した経験から、オープンストリートマップを被災地支援として本格的に活用していきたいと思いました。海外ではイギリスに本部を置くオープンストリートマップ財団とは別に、オープンストリートマップを活用した人道支援活動に特化したNGO(非政府組織)としてHumanitarian OpenStreetMapTeam(HOT)を設立し、有事に迅速な対応ができるようにしています。クライシスマッパーズ・ジャパンもその例に倣う形で、2016 年に法人登記をしました。
―具体的な活動内容は。
普段使いのオープンストリートマップの作成はもちろん、作った地図を使ってリアルなシミュレーションができる災害訓練「すごい災害訓練」も行っています。最近では企業や自治体、海外から来る仲間と一緒にフィールドワークをして地図を作る「マッピングパーティー」の活動が盛んですね。
また、ハイチ地震のときがそうであったように、遠隔で地図を作る際には衛星画像や航空画像が元になるのですが、近年はドローンで撮影した画像が非常に重要な位置付けになってきています。当法人でもドローンを使った取り組みを一つのプロジェクトとして設けており、災害ドローン救援隊「ドローンバード(DRONE BIRD)」という名称で、災害時の活動や定期訓練をしています。2019 年9月の台風15 号による災害では、千葉県君津市でドローンによる空撮を行いました。台風の襲来から一夜が明けて、現地の大変な被災状況がわかったあとすぐにチームを作って翌朝に現地に入りし、午前中のうちに撮影を終えて、夕方にはSD カードにコピーした撮影データを市役所に納品しました。
― 迅速な対応ができた秘訣は。
事前に災害協定を締結していたことです。ドローンの航行には法律のハードルがありますが、協定を結んでいれば、航空法132 条の3に該当する「災害時の特例」に当てはめてもらえます。災害協定がなかったら君津市での撮影は実現しなかったでしょう。さらに、災害時発令を待っていたら時間をロスしてしまうので、我々の協定書には「災害発生時には自主的な判断に基づいて活動すること」を明記しています。君津市との協定にも「自主的に」という条件があったので、メールでの通知のみですぐに現地に入りました。
【現状の課題と今後の展望】
災害時、真に役立つクライシスマッピング活動を行うために
― 台風15 号のドローンバード出動で見えた今後の課題はありますか。
民間団体である我々が災害時に迅速に動けるようにするためには、航空法の壁をクリアする必要があります。そのために、ここ数年間はなるべく広いエリアの自治体と災害協定を結ぶことに注力していました。君津市と隣接している自治体とも協定の話はあったのですが、締結まで時間がかかり、台風15 号でのドローン空撮は叶いませんでした。災害協定では複数の自治体が面的につながることが大事だと考えています。隣接する市町村の両方と協定を結びながらエリアを拡大していけば、より効率よく撮影することができますから。自治体が横のつながりを持つことは、双方にとって圧倒的にメリットが大きいと思います。
― クライシスマッパーズ・ジャパンの今後の展望をお聞かせください。
災害発生時、各行政やボランティア等が適切な災害対応プランを立てて遂行していくために、地図は欠かせないツールです。しかし、災害時に本当に役立つクライシスマッピングを行うためには、いかに素早く最新情報を取り込み、被災による町の大きな変化にも対応した地図を提供できるかどうかが鍵になります。そのための体制を作り、常にフレッシュな地図を提供していくことが我々の使命だと考えています。
マッパーの輪を広げながら鮮度の高いクライシスマッピングを行っていくことはもちろん、さらに多くの自治体と災害協定を締結していくことや、現場の最新情報を撮影・共有してくれるドローンパイロットの育成にも、引き続き取り組んでいきたいと思います。
また、ドローンの空撮画像も含めて、一般市民の方々も素早く最新の情報を受け取れるような形にしていきたいです。災害が起こったとき、現場の状況把握や判断にクライシスマッピングの活動を役立ててもらうためには、撮った画像や作成したデータを素早く、より多くの人々に共有することが一番大切なことだと我々は考えているのです。プライバシーの保護とのバランスを取りながらではありますが、我々の活動はすべて『公開』を前提にして参加者を募っています。
(取材日/2019 年10 月24 日)
特定非営利活動法人 クライシスマッパーズ・ジャパン
〒182-0022 東京都調布市国領町三丁目4番地41号
メールアドレス/ info@crisismappers.jp
URL / https://www.facebook.com/dronebirdproject
vol.9
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